ショーゲキの告白
セイちゃんは28歳・男子。三人兄弟の中で、彼だけが故郷を離れたところで働きながら一人暮らしをしているということで、同じ一人暮らしをしているわたしに親近感を抱いてくれているのか、不意に電話をかけてきたりする。
かなりなクルマ好きのセイちゃんは、「三大欲求に次ぐのは、絶対スピードですよ」と断言する。わたしはそれには疑問を感じ、反論したが、セイちゃんはなかなか折れない。
「人はスピードに惹かれるでしょ? その結果が今の社会じゃないですか」
「そうとは言い切れないんじゃない? だって、スピードに明らかに恐怖を感じる人がいるじゃない? それに、スローライフとかスローフードとか、スピードへの反動のような考え方もあって、ゆっくりいきたいと考える人もけっこういるわけだし」
「恐怖は、すなわち快楽の裏返しでしょ。食欲でいえば、食事は腹に入ればどうでもいいと思っている人とか、性欲でいえば、セックスしなくても平気と思っている人のようなもんじゃないですか?」
「論点がズレてるよ。食事やセックスは、こだわろうがこだわるまいが、生命の存続に関わるけど、スピードは違うもん。てか、恐怖が快楽ってのも納得できん」
と、なかば不毛なやりとりをしていたのだけど、時間も時間で、しかもわたしもちょっと酔っ払っていたためか、なにがなんでもセイちゃんを説き伏せたくなった。
「セイちゃんが男だからこういう例えにするんだけど、男の人が2人います。AさんはBさんのことが好きなんだけど、Bさんは気づいていないか、そんな気持ちはない。でもAさんが自分の思いを遂げたくて、無理矢理Bさんを押し倒してアナルセックスをしたとします。Bさんはむちゃくちゃ恐怖を感じた。なのにそれを、『快楽の裏返し』なんて言われたら、Bさんは発狂するほど怒るんじゃない?」
そのとたん、なぜかセイちゃんは一瞬黙り込み――わたしの例えに納得したかと内心ほくそえんでいたら、「お姉さん、ボク、この話、したことなかったっけ?」と切り出した。その話によると――。
――セイちゃん18歳の時、ひどい急性胃腸炎を患い、吐くわ下すわの症状が一向に治まらず、とうとう病院に駆け込んだ。そこでなぜか、直腸検診を受けることになり、看護士に肛門から指を入れられてまさぐられているうちに、ひどく感じて思わず「あ…!」と声を出し、看護士をいたく喜ばせた――。
「え? ってことは、看護士さんの指は、いわゆる前立腺に当っちゃったってことかしら?」
「ううん。違うと思うんだけど……たんに内臓に当っただけなんじゃないかな……よくわかんないけど」
電話の向こうで恥らうセイちゃん。
「あのぅ……。直腸検診ってさあ、人によっては、気持ち悪く感じる人もいるらしいけど……。セイちゃんは、指を入れられて気持ち悪くなかったの?」
「うん。気持ち悪くなかった。てか、あの時はワケがわからなくて、それが気持ちよかったってこともわからなかったぐらい……あとでわかったけど。あ、けど、それから自分でいじったりはしてないよ! 人にも触らせたりしてないからね!」
いやいや、そんなに強く主張しなくてもいいから。つーか、なんでこういう告白を受けているんだ!? オネーサン、ビックリですよ。セイちゃんの話し振りもおかしくて大笑いしていたら、「これ、ボクのネタなんで、お姉さんの友達とかに話してもいいですよ」と、なぜか満足そうに、そんなことをのたまうセイちゃんなのだった。
ええ、お言葉通り、ここにアップさせてもらいましたよ、セイちゃん。といっても、キミはこのブログを知らないだろうけどさ――。
セイちゃんの驚きの告白は、さらに続く。
「ボクね、中学生ぐらいの時、コンちゃんにゲイらしいグラビアを見せてもらったことがあるんだよ。あの時の衝撃は忘れられないなぁ」
コンちゃんとは、わたしの弟のことだ。
「なに、コンが、ゲイグラビアを持ってたの…!? それって……あの…男の人がポーズを取ってる感じ…かな?」
「うん。ボク、こういうものもあるんだなぁと思って、本当にビックリした。でも、嫌悪感はなかったよ」
そうかそうか、セイちゃんは、ゲイグラビアを見ても嫌悪感を感じなかったのか――いや、その前に、なんで弟がゲイグラビアを持ってたんだ!? 友達などから回ってきたのかしら。自分で買ったのかなぁ…。うーん、すでに結婚した弟には、よほどのタイミングが合わない限り、そのあたりを確かめられそうにない。んもう、セイちゃんたら、どうしてもっと早く、そんな面白い事実を教えてくれなかったのかしら。
セイちゃんは、「自分はゲイじゃないと思う」と言いながらも、「でもボク、男友達とハグするのは好き」と、これまた照れくさそうに打ち明けてくれた。だから、そういうことを腐女子の前で言ったらイケマセン。いや、別に、身内で妄想する趣味はないけども。
あ、ちなみにセイちゃんは、イケメンとか美男とかハンサムとかいう言葉にはちょっと遠い、素朴な風貌でちょっぴり太り気味の元ラガーマンです。いやー、しかし驚いたわ、ほんと。

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