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『Release』(月村奎)―年を取っても自己卑下してしまうもの

 05,2016 14:20
これ、新作じゃなくて、新装版だったんですね――ということを、読んだ後に初めて知ったのだった。


Release (ディアプラス文庫)Release (ディアプラス文庫)
月村 奎 松尾 マアタ

新書館 2016-03-09
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有名企業に就職したものの、仕事がうまくいっていない安西。恋人にも振られ、気分転換に出席した地元の同窓会で、安西の過去の秘密を知る奥村と再会する。安西が仕事で大失敗をした翌週末、その奥村から電話があり、会社を辞めて彼の喫茶店を手伝わないかと誘われる。さらに奥村が、ある忌まわしい写真の存在を仄めかしたことから、安西は地元に戻ることになるのだが…?再会から始まる解放の恋物語、ついに復活。



以前出版されたのが1997年。ほぼ20年前! でも、改稿の賜物なのか、それほど古さや違和感を感じない。同時収録作に、男女モノが入っていることには、ちょっとビックリしたけれど。


でも、物語のコアな部分は月村作品らしく――特にキャラクターの造形、自己卑下的な、自虐的な感じや、どっちかというと後ろ向きでグルグルと考え込んでしまう感じは、変わらないんだなぁ……と、興味深かった。そこは、月村作品の揺るぎないことの一つなのかも。


主人公の安西は、せっかく就職した会社での仕事が合わず、自信を失ってオドオドしている。そんな安西を、中学時代の同級生・奥村は強引に自分の店で働かせるのだが、安西は奥村に対して“やましさ”を感じており、やはり不安を拭いきれない。


安西の不安や罪悪感、自虐的な様子は、読んでいて「そんなに悪く考えなくてもいいんじゃないの?」と思う一方、「わかるなぁ……」と共感できる部分も多い。「なんでこんなことができないんだろう」とか、「あの時、自分にスキがあった自分が悪い」とか、安西の置かれた状況なら、誰でも少しは、そう感じるかもしれない。


だがしかし、安西や奥村と同級生で、紅一点のはるひの罪悪感、自己卑下かつ自己懲罰的な態度と考え方には、ツッコミを入れずにはいられなかった。「いやいやいや! 何もそこまで思いこむことないから!」と。


過去の浅はかで軽はずみな行動(とはるひは思っている)による中絶とその代償を一人重く受け止め、自分には幸せになる資格はないと、頑なに信じ込んでいる。そして、彼女に思いを寄せる、やはり同級生で幼なじみの遼平の気持ちを、頑として受け付けない。


その頑固さ、強情さ、偏屈なまでの依怙地さときたら! 


頑固だと呆れつつも、「んもー、そんなに自分を責めなくても大丈夫よ~!」などと思えるのは、わたし自身がそれなりにあれこれ潜り抜け、年齢なりの経験を積んでいるからこそなのかも――とも思うのだ。もしはるひと同じぐらいの年齢なら、彼女と同じように自分を罰し、頑なに心を閉ざしていたかもしれない。それに、読んでいてはるひの頑迷さを全面的に拒絶したくなるわけではなく、ある意味愛おしく思えるのは、やはり“年の功”なんじゃなかろうか。


――年を取るのは楽しくないけど、若い頃よりちょっと気持ちにゆとりができるのはいいことだよなぁ……。


と、読後の余韻を噛み締めていたところ、友人のトオルちゃんからメッセージが飛んできた(ちなみにトオルちゃんは女性。山咲トオルのモノマネが上手く、周りにゲイが多いスケートオタク)


「職場の面談でさー、上司に言われたこと、結構まだ後を引きずってるの……」


トオルちゃんはその数日前、職場面談で、上司から心外ともいうべき批判を受けたのだが、何かが心に引っかかって、立ち直れずにいるらしい。


「私、上司の言葉を思い出すと、職場の人間関係もちょっと自信なくなってきちゃって……。本当はみんなに嫌われてるのかな、とか思って……」


――あ、こりゃかなり凹んでるなぁ……。第三者からすれば、上司の発言も発言だし、トオルちゃんがそこまで気に病むこともないのに……。


「あのね。人は思うほど、自分のことを気にしていないっていうのは確かなことだと思うし、それに、嫌いっていう気持ちを完全に隠して嫌いな人と接することができる人って、そんなに多くないと思う。まあ、わたしがトオルちゃんの立場だったら、こんな風に考えられないかもしれないけどさ」


そんなメッセージを送ると、すぐにトオルちゃんから返信が届いた。


「そうなんだよ!! 私も、人にはそう言うし、自分のことじゃなきゃそんな風に考えられるんだよ!」


――いやはや、“年齢とともに気持ちにゆとりができる”は、余裕ぶっこきすぎでした! 四十路過ぎても、時には自己卑下的で自虐的な感情からは逃れられない! 特に自分自身については。


「今日は早く帰って寝るわ!」というトオルちゃんに励ましの言葉を送り、もう一度、『Release』を開いてみた。――うん、はるひのこの頑なさは、まだ20代前半なら当然かもしれぬ。だが、そんなはるひをずっと思い続けた遼平の懐の深さは、20代前半にしては老成している気がしないでもないけどな!


書き下ろし作品の『地球最初の日』では、はるひと遼平はすったもんだのうちにまとまり、安西と奥村もまた一歩、関係を深める。個人的には、はるひと遼平の話のインパクトが強くて、安西と奥村の話をもう少し読みたかった、かな。


ところでこの作品を手にしたのは、月村作品だからということはもちろんだけど、松尾マアタさんの表紙絵に惹かれたから。挿絵も素晴らしくて、線の細そうな安西の様子は、この作品にピッタリだなぁ! と感心したのだった。


書店ペーパーの、月村先生のインタビューも嬉しかった。「金太郎飴作家の名に恥じない既視感を追及していきたい」というその言葉、深い……!
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Tags: 月村奎 松尾マアタ

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