納品明けの脱力状態に心地よいテンポ――『初恋の嵐』(凪良ゆう)

 04,2016 23:34
――合意……っ。


の文字を見たとたん、一人で爆笑してしまったこの作品。


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凪良 ゆう

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「俺は将来、悪徳弁護士になって金を稼ぐんだ!!」大学生と偽って蜂谷の家庭教師に現れた同級生の入江。目的のためなら年齢詐称も厭わない現実主義者だ。有名ラーメン店の跡取りで、将来が決まっている蜂谷は、自分と正反対な入江に驚かされてばかり。共にゲイだと知っても「お互い範疇外だ」と言い続けていたけれど!?築き上げた友情の壁は簡単には崩せない―こじらせまくった永い初恋。


納品明けの気が抜けた休日、久しぶりに読むBL小説として


・どうやらラブコメらしい。
・“永い”ということは、主人公たちの心情の変化や成長が楽しめる可能性が高い。
・凪良作品ならきっと気持ちよく読める。



という直感のもと選んだのだけど、大正解。凪良作品のラブコメは、“コメ”の部分が本当に丁寧で抜かりないなぁと、改めて思った。


おっとりしていて素直な蜂谷、野心漲らせる現実主義者の入江――と、主人公たちのキャラ設定はもちろん素晴らしいのだけど、脇のキャラ設定が、もう盤石。


将来を嘱望されているアスリートだが心はガールな良太郎、対人スキルゼロだが抜群の舌と腕を持つ料理人の松田、元ヤンキーで成り上がって一大ラーメンチェーン店を築いた父親、いつまでも少女みたいだが案外したたかそうな母親、玉の輿からの離婚に備え自分を磨く入江の妹などなど――濃ゆい。書いていて濃ゆい。しかも、「なんとなく、活かしきれずに自然消滅」ということもなく、全員イキイキと動き回っている。


――凄いことです。殊に、せっかく作ったものの、諸事情で品質を妥協し、一部納品を諦めるという、苦い結果を味わったわたしには、ひとしお、その凄さが身に沁みます――。


蜂谷、入江、良太郎のセリフのやりとりも軽快で、テンポが良くてコミカル。この軽快さとコミカルさ、小林典雅作品でも感じることだけど、典雅作品とは、ちょっと味わいが違うんだよなぁ……。以前、典雅作品には落語のようなノリを感じると盛り上がったことがあったけど、凪良作品は、演劇っぽいのかしら……いやいや、うーむ……。


ともかく、冒頭の「――合意……っ。」含めて、ずっと頬を緩めっぱなしで読んだ。もう一箇所大笑いしたところがあって、それは、鈍感な入江を、ヤキモキした入江が蟹ばさみをキメてヘッドロックをかます場面。木下けい子さんのイラストで想像すると、より一層笑えるってもんです。


もちろん、当初の期待どおり、蜂谷は入江の貧乏暮らしや人となりを間近で見て、ただのお気楽なボンボンから思慮深い大人に成長し、入江も、お金では得られない大切なもの(つまり蜂谷)を持った現実主義者に成長した。


良太郎は、トランスジェンダーであることをオープンにし、アスリートとして復活する。そうそう、この作品、地方でゲイとして暮らす窮屈さにもサラッと触れ、良太郎や蜂谷の苦悩が描かれている。


なかなか想いを告げられない蜂谷と入江にキュンしつつ、読み終わった後には心地よいカタルシスを感じたのだった。


ああ、よい休日の読書だったなー!
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Tags: 凪良ゆう 木下けい子

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