『明日はきみと笑うシャラララ』 (くもはばき) &感想を語りあうための作品チョイスの難しさ

 22,2015 23:41
マイ作家買い作品はともかくとして、これほど登場人物の関係性が濃やかかに書かれている作品を読めるなんて! ――と、感嘆した作品。


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くもはばき 奈良千春

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人気お笑いコンビ「らんな~ず」のひとりだった片山は初恋の相手でもあった亡き相方・中本のことが忘れられず、表舞台からは去り放送作家に転身した。相方亡き後の人生はただの消化試合だと荒んだ生活を送っていたある日、片山の元にハウスキーパーの広川がやってくる。施設育ちの広川にとって「らんな~ず」は希望の光だったと語る彼の不思議なマイペースさに触れるうちに、片山の心は少しずつ癒されていく。ところがある晩、片山は中本のことで自棄を起こした末、広川と関係を持ってしまい……。笑いと涙が痛みを癒す、魂の救済の物語。



相方の喪失から立ち直り切れない、女々しくて無気力なダメ中年の片山が、ハウスキーパー・広川と関わることで己を省み、マネージャーの淀川や相方の妻・とも代ら周りの親しい人たちに叱られ、励まされて、前に進み始める。


同時に、施設育ちで親に捨てられたという思いから、自分の存在価値に自信が持てず、大切な人を失う不安を持ち続けている広川は、片山から求められることで、その不安を恐る恐る手放そうとする。


――うん、確かにこれは、“魂の救済の物語”だ。それも、受け攻め両方それぞれの。ニクいなぁ……。


片山、広川はもちろんのこと、淀川やとも代ら、周りのキャラクターもしっかりと形作られ、ストーリー展開に密に関わるので、読み応えがある。


すでに亡くなっている中本についても、片山の回想や、登場人物たちの会話で、その人物像が何度となく語られる。そのため、読み手は中本の人となりや、片山との関係の深さを、十分想像できるようになってはいる。


だがしかし、物語の終盤、ダメ押しのように中本は“幽霊”(?)として片山の目の前に現れる。そして、まるでそれまでほかの登場人物たちの回想や会話で語られていた“伏線”を回収するかのごとく、片山への思いを語り、最後にはコンビ解散を宣言しつつ片山を励まし、去っていくのだ。


――故人が“幽霊”として登場するってどうなの? 安易じゃない?


と思わないでもないが、個人的には、このおかげで片山と中本の関係の深さを再確認できたし、片山以外の登場人物たちは、とっくに“中本の死”を受け入れていたことに、改めて気付かされた感じがする。


同時に恐らく、これがあったからこそ、片山は広川に怯まず挫けず、果敢にアプローチできたんじゃなかろうか。


いやぁ……読み終わった後に消化しきれないことがなく、良い作品だなぁ……としみじみ読後の余韻を味わっていたのだが、思わぬ事態に遭遇することになった。


それは、毎月の“課題図書感想語り@日本酒会”。


このところ、腐仲間の中でも酒好きたちが集まる日本酒会で、ついでに“課題図書”と称してBL作品1冊を選び、その感想を語りあっている。そしてこの作品は、10月の“課題図書”だったのだけど、読了率が、かつてないほど低かったのだ(“かつてない”っつっても、これが3回目だったのだけど)


「すみませーん! 今回時間がなくて読めませんでした~!」


という報告が、6人中2人。しかも、


「悪くないとは思うけど、そこまで良いとは……」


という消極的な意見が、4人中2人。


――あ、あれ!? かなり良いと盛り上がっていたのはワタシだけ!?――


オロオロするうちに、感想語りはうやむやのうちに終了。おいしい日本酒と料理の感動に追いやられてしまったのだった。


――解せぬ……………。


後日、消極的意見を言っていた一人に、「何がイマイチだったの?」と、ちょびっとツッコんで聞いてみたところ、


「私、“芸人モノ”が苦手なんですよ」


という答えが返ってきた。


「BLの芸人モノが苦手ってこと?」
「いや、そもそも、お笑いや芸人が好きじゃないんです。見てても何が面白いのかよくわからなくて……」


――そうか……。そりゃあ、作品を楽しめなくても仕方ない。


実は、それまで“課題図書感想語り@日本酒会”で取り上げた作品は、控えめにいっても“トンチキ系”な作品ばかりだった。ツッコミどころ満載で、ありえないシチュエーションにゲラゲラ笑えるような、そんな作品。


今回のこの作品も、タイトルだけ見て、“これはトンチキ系かも……!”と、唾を飲み込みながら選んだのだけど、あにはからんや、丁寧に作り込まれた佳作だったというわけ。


案外こういう作品は、個人の嗜好が影響して、他の人の感想に共感しにくいのかなぁ……。トンチキ系や、ツッコミどころの多い作品の方が、複数人で感想を語って盛り上がりやすいのかも……と思ったのだった。


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オロオロしながらもいろいろ飲んでるな……


――ま、この作品は、“片想いと思いこんでいる両想い”とか、“AはBが好きで、BはCが好きで、CはAが好き”という追っかけっこ三角関係とか、ウソくさくない方言とか、とりわけわたしの萌えポイントをいくつも突いている作品ではあるんだけどさ。


ところでこの作品、くもはばきさんの商業作品デビュー作らしい。うーん、これからの作品も楽しみ!
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Tags: くもはばき 奈良千春 腐友 オフ

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