【海外M/M小説で考えた】嘘を抱えて生きてゆけない

 26,2015 23:47
家族や同僚たちから拒絶され、孤立してしまうことを恐れるばかりか、自身のセクシュアリティに気付かないフリをしようとさえする、海外M/M小説の中の、クローゼットゲイ設定なキャラたち。


そんな彼らに理解を示しつつ、一方で、モヤモヤした気持ちを抱えているらしいのは彼らの恋人たち、つまり、カムアウト済みの“受け”である、作品の主人公だ(一部“攻め”もいるけど)。


これまで翻訳されているM/M小説を読んだところ、主人公カップルの多くが、


クローゼットゲイ×オープンリーゲイ


の組み合わせであり、かつ、セクシュアリティの自認やカムアウトにまつわる問題がストーリー展開に大きく影響していくのは、実に興味深いことだなぁと思う。


つまり、そういった問題が、ストーリーと共に主人公カップルの間で重さを増してゆき、時に口論や、別離の危機にまで発展するんだもの。


自分がゲイだと受け入れ、カムアウトまでしている受けは、自身がゲイであることを受け入れられずにいる攻めに、しばしば似たようなことを言う。


そのキーワードは、“”。


「お願いだ。マット。信じてくれ。自分の心に嘘をつかないで
 マットの頬を、涙が伝う。
「だが、こんなの間違っている」
「いいや、そんなはずない。間違ってなんかないよ」
(『ロング・ゲイン』P167 ※太字は管理人による)



「なぜだい、マット? どうしてそんなに悩まなきゃいけない? 正直になれよ――僕に、惚れてるんだろ? 僕がきみに惚れてるみたいに」
(『ロング・ゲイン』P208 ※太字は管理人による)



「お前は多分、俺の知る限り、一番きれいな男だよ」
「それだけウイスキーを飲めばね」
「いや、本当の話だ。いい男だ。目とか、とにかく全部。俺の好みじゃないが、とにかくきれいだ」
「お前の好みって?」
「女」
嘘だね
 その言葉に、はっとジェイクは頭を上げ、憎しみすらこもった目で僕をにらみ返した。
嘘だ
 もう一度、僕はくり返した。
(『死者の囁き』P291 ※太字は管理人による)



――言ってますなぁ……。言われた攻めは、「嘘じゃない」とばかりに必死に否定したり、抗議するかのように睨んだりしているけれど、ま、ここで「うん、嘘だった」と認められるなら、そもそもこんな緊迫したやりとりをするハメになったりはしないよね。うん。


でも、カムアウトはしていないものの、ゲイだという自覚がある攻めは、相手に言われるまでもなく、自らこんなことを言ったりするのだ。


「ジョシュは、友達に自分がゲイだって打ち明けるつもりはないのか?」
 ジョシュは地面に視線を落としていたが、ふたたび目を上げた。
「打ち明けたいよ。嘘は嫌いだから。だけど、なかなかきっかけが掴めないんだ」
「いつか、そのきっかけがやって来ると思っているのか?」
「ああ」
(『ルームメイト』P135 ※太字は管理人による)



ゲイであることを自覚して受け入れることや、周囲にカムアウトするということは、イコール“嘘をついていない”ということであり、ひいては“自分や周りに対する誠実さ”の証明、という認識なんだなぁ……と、今さらながらに感じ入る。


これまで読んだM/M小説は、ほぼアメリカ人によって書かれた作品だと思うのだけど、かの国では、時に潔癖なまでに“嘘”が忌み嫌われることを思うと、作品内のキャラたちの苦悩の様子も、アメリカならでは、といえるのかも。


そういえば、『恋のしっぽをつかまえて』では、こんなやりとりがあった。


「まだ、気持ちの整理がついてないんだよ。僕は、嘘が嫌いだ。何であんな嘘をつかなきゃならなかったのかは、わかる。……<中略>……秘密は仕方ない。でも嘘は別だ
「グリーンは嘘の名前じゃない、俺の母親の旧姓だ。母とマロリーは一緒に大学に行っていた。あの家を見ただろ、シーザー? 表札はグリーンとなってた筈だ。それにな、俺も嘘のゲームは大嫌いだ。警察でのキャリアを捨てたのは、警察じゃ、ゲイであることを隠しておかなきゃいけなかったからさ
(『恋のしっぽをつかまえて』P303 ※中略、太字は管理人による)



嘘、ダメ、絶対!!


日本だって、嘘は嫌われるし、嘘つきは信用されない。だけど、拒絶や排斥を恐れてゲイだと明かさないでいることを、“嘘をついている”とする感覚は、ちょっと違う気がするんだよなぁ……。


ところで、セクシュアリティの自認やカムアウトがストーリーを大きく左右するのは、主人公カップルが“クローゼットゲイ×オープンリーゲイ”と、明らかな場合だけだ。


クローゼットか否か触れられていない場合や、どちらもカムアウト済みという設定の場合、そうした問題は、ストーリー展開にさほど影響しない。


ただ、主人公カップル周辺の人物の問題として描かれていることはあるので、M/M小説においては、セクシュアリティの自認やカムアウトは、決して無視や回避はできない事柄なんだな――と思うのだった。


そこらへんも、いかにもアメリカらしいといえるのかも。


続きます。


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Tags:  BL N/M 複数レビュー ゲイ カミングアウト クローゼット

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