神話モチーフにワクワク―『微睡の月の皇子』(かわい有美子)

 27,2014 23:28
かわい有美子さんの新刊が先月末出ていたということに、わたしったら1ヵ月も気づかないままスルーしてたなんて……!


――と、自分の迂闊さに舌打ちしつつ、3週間ほど遅れて手に入れた『微睡の月の皇子』。神代が舞台の物語だったのだけど、神話などのエピソードがうまいことミックスされているもんだなぁ! と感心してしまった。


ちょっぴり神話好きとしては、どんなエピソードが練り込まれているのか並べてみたくなって、無粋は承知でまとめました――うん、言われなくてもわかってる……自己満足だってことは……!


微睡の月の皇子 (リンクスロマンス)微睡の月の皇子 (リンクスロマンス)
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神々の住む穏やかな気候の高天原は、太陽を司る女神・大日霊尊が治めている。その弟である月を司る神・月夜見尊は、心優しい性格からある罪を犯したため、高天原を追われることとなってしまう。下界である神や人間の混在する世界・葦原中つ国へと降り立った月夜見の噂はその周辺国の荒ぶる神々の間に伝わり、月夜見は追われ逃げるが、ついに武力に長けた神・夜刀に見つかってしまう。他の蛮神から守るという名目で夜刀に連れてこられた月夜見だったが、強引に躰を開かれ半陰陽だという秘密を知られてしまう。はじめは悄然としていた月夜見だったが、しだいに荒々しい夜刀の中にある優しさに気づき惹かれはじめていき…。


無粋すぎるので折りたたみます。

1:モデルは三貴子

主人公は月を司る神・月夜見尊。姉が大日霊尊、弟が須佐乃男尊ということで、これが日本神話の三貴子がモデルになっているのは明らか。威厳に満ちたカリスマのある姉と、やんちゃで暴れん坊な弟に挟まれて影が薄い真ん中っ子というのも、神話をちょっとでも知っているならおなじみの設定だ。


この作品を読んでいて思い出されたのは、やはり三貴子が登場するこのマンガだったんだけど……。


月読―自選作品集 (文春文庫―ビジュアル版)
月読―自選作品集 (文春文庫―ビジュアル版)


『月読』で描かれていた月読は、敬遠されながらも姉の天照を恋慕い、やんちゃで陽気な弟の須佐之男に嫉妬するという、ちょっと陰気な湿っぽいキャラだったなぁ……。


『微睡…』の月夜見は陰気ではないけれど、月読同様、ひっそりと控えめな雰囲気。夜を司る月の神だもの――ギラギラとアグレッシブなイメージはないですよね、ええ。


2:月夜見が下界に撒く食物とウケモチノカミ

月夜見が高天原を追放されたのは、神々の蔵の食物を下界の葦原中つ国に撒いたから。これは神話の中の保食神(ウケモチノカミ)の話が下敷きになっているのかしら? 


神話では、アマテラスに命じられてウケモチノカミを訪れたツクヨミが、口から食物を吐き出してもてなすウケモチノカミを、「汚らわしい!」と切り捨ててしまい、アマテラスを激怒させてしまった、という流れなのだけど――。


『微睡…』では、気立ての優しい月夜見に合わせて、“食物を下界に撒く”という風にアレンジされたような。


3:夜刀のモデルはわりとそのまんま?

そして、下界の葦原中つ国で月夜見を強引に自分のものにしてしまう夜刀のモデルは、かわい先生が“なかがき”で書かれていたとおり、常陸国風土記に出てくる夜刀神。


夜刀神のことはこの作品で初めて知ったのだけど、調べてみると確かに、角を生やした蛇の姿をした国津神(土着の神)だった。読んでいる時は、ヤマタノオロチのアレンジかと思ってたよ……!


4:殺されてしまう高天原からの使者

物語の終盤、高天原からの使者・田鶴彦が、月夜見を迎えにやってくる。しかし月夜見を失いたくない夜刀は、田鶴彦を殺してしまう。


実はこれ、天若日子(アメノワカヒコ)が高天原からの使いを殺した神話がベースだったらしいと、これを書くためにあれこれ調べていて気が付いた!


しかも『微睡…』で殺される田鶴彦はツル、神話で殺されるナキメは雉と、どっちも鳥。おまけにアメノワカヒコは高天原から葦原の中つ国に遣わされ、そこで結婚して居着いてしまうのも、何やら月夜見に似ている。


田鶴彦を殺したのは月夜見ではないけれど――うっかり見落とすところだったなぁ……! 危ない危ない。


5:ヤマタノオロチ伝説風な須佐乃男と夜刀の戦い

さて、次に高天原から月夜見を迎えに来たのは須佐乃男。須佐乃男が夜刀と戦うシーンは、『ヤマタノオロチ』の話を彷彿とさせる。何しろ戦っているのは須佐乃男だし、太刀で夜刀を斬りつけるし。


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『八頭の大蛇/The Eight-Headed Serpent』の挿絵より。浮世師・日本画家の小林永濯によるヤマタノオロチ絵


ま、伝説に比べたら、『微睡…』の須佐乃男は夜刀を前に“無双”って感じですけどね。


6:神産巣日神と蘇生

瀕死の夜刀を救うのは神産巣日神(カミムスビノカミ)だが、これはカミムスビノカミが大国主命(オオクニヌシノミコト)を蘇生させる神話がアレンジされているのかも。


7:拾われる因幡彦と白兎神話、そしてオオクニヌシ

高天原を追われた月夜見に連れ添い、葦原中つ国でも月夜見の世話をする因幡彦は、もともとは白兎。月夜見が高天原にいる時、月夜見を慕って後を追いかけてくる因幡彦を、月夜見が連れ帰ったという設定なのだけど、これはもう、『因幡の白兎』がベースになっているでしょう!


『因幡の白兎』ではオオクニヌシノミコトが白兎を助けることになっているけど、そういえば『微睡…』の月夜見は、オオクニヌシ風な要素も加えられているかもしれない。つまり月夜見のモデルは、ツクヨミノミコトとオオクニヌシノミコトがブレンドされたものじゃあるまいか?


月夜見の優しさは、兎を助けてやるオオクニヌシに重なるし、月夜見が夜刀の兄たちに乱暴されそうになるのは、オオクニヌシが兄たちから苛められる設定と似ている、と言えなくもないような。


それに、オオクニヌシは高天原に葦原中国の国譲り(統治)をした後、幽冥界の主となるのだけど、“幽冥界”て、なんだか夜をイメージさせられませんか? え? こじつけすぎ? 穿ち過ぎですかね!?


8:月夜見のふたなりの根拠

ところでこの作品の中で月夜見は、“ふたなり”という設定なのだけど、改めてツクヨミノミコトを調べてみて、その設定は突飛でも強引でもないとわかった。


なんとなく、アマテラスは女神、ツクヨミは男神というイメージがあるけれど、実は逆じゃないの? という説もあるし、性別不詳という説もある。ちなみにどちらも夫や妻はいない。また、アマテラスは、両性具有神と考えられたこともあるらしい――中世に書かれた書物において。


ツクヨミについてのそうした記述はなさそうだけど、アマテラスと対の存在だし、そもそもツクヨミについての情報は少なく、どんな気性の神なのか超漠然としていることを思うと、


――ふたなり設定、それはそれでアリじゃないかな――


と思えるのだった。えっと、エッチシーンにおいて、ヴァ●ナよりもア●ルの方がスムーズにペ●スを受け入れているのが、なんだか新鮮ではあったけど……ここはやっぱりBLだからなの……!?


あ、萌え方向では、“ツクヨミふたなり設定”は結構ありそうでしたよ!


そのほか、神話ではないけど、須佐乃男が月夜見を迎えにくる場面は、『竹取物語』のかぐや姫のもとに月からの使者が迎えに来た場面みたいだなぁと思った。


また、夜刀を喪ったと月夜見が嘆いた結果、闇が訪れ世界が凍ってしまう場面は、なんだか『ア●と雪●の女王』のエルサみたいだ……などと思ったんだけど、このシーンのモデルになった日本神話は、探し出せなかったんだ……! どなたか、これじゃないの? というものがあれば、情報プリーズ……!


ちょっとだけ神話にハマったことがあったせいで、「これはあれがベースかも」「これはあれをアレンジしたのかも」と滾ってしまった。でも元ネタをあれこれ想像するのって楽しい。


かわい先生は平安時代以前に萌えがないと書かれていたけれど、また気が向かれたら、神代の物語を書いていただきたいなぁと思う。別に埴輪や古墳はなくてもいいですから……!


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Tags: かわい有美子 カゼキショウ 歴史モノ

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