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江戸も明治も遠くなりにけり―「江戸のエロスは血の香り」(氏家幹人)、「男の絆 明治の学生からボーイズ・ラブまで」(前川直哉)[6]

 25,2013 00:12
予想以上に長くなってしまったレビューですが、これで最期です。


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氏家幹人

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■女装・男装どっちもアリ。そして腐女子も!?


江戸時代に関する文献を読むたびに感心するのだけど、当時の創作物に使われたモチーフは本当に多種多様で、現在のオタク界隈にあるモチーフは、ほぼ江戸時代までに出尽くしているのではないかと思うほど。

今回の『江戸のエロスは血の香り』では、女装や男装がモチーフになった作品がいろいろと紹介されていた。


・青年武士と男装の麗人の物語
 (浮世草子『好色十二人男』より)
・青年武士と、かつて彼が愛した若衆によく似た娘との物語
 (浮世草子『傾城辻談義』より)
・女装した美少年と美少女の物語
 (人情本。為永春水作『春告鳥』)
・陰間好きな大店の若旦那と男装した美少女の物語
 (人情本。為永春水作『春色袖之梅』)


上の二作が刊行されたのは17世紀末~18世紀初めの元禄時代。太平の世となって衆道が廃れ、武士の恋の相手が少年から女性へと転向していた社会の風潮を反映したものだという。なるほど、だから青年武士は、男装の麗人や若衆に似た美少女と恋に堕ちるのね。


どれも男女の恋物語ではあるけれど、主人公が、あるいは読者が、事情を明かされなければ同性同士の恋物語のように思えるように作られたりしていて、凝っている。


そして小説ではないけれど、印象に残っているのが、西川佑信作の春画についての紹介。というのも、描かれていたのは、男色の濡れ場を女たちが垣根越しに見て興奮しているという姿だったから!


男性間の恋愛を描いた小説やコミックを偏愛する現代女性(腐女子!)の嗜好は、以外と江戸の昔にさかのぼるのかもしれない。 (P71より)


と解説されていて、いやぁ、江戸時代なら腐女子がいたと言われても違和感がないなー! と思った。


まったく、どんなに斬新なアイデアだと思っていても、「江戸時代にあったかも……」という既出感はハンパない。恐るべし、江戸時代。



■美は力。武士も美しくあるべし


最後に、今回『男の絆』と共通して取り上げられていた“男色”関連で、印象に残ったことを挙げておく。


戦国時代から江戸時代初期、つまり衆道花盛りの頃、武士にとって紅や香、手鏡は必需品だった。なぜなら、戦場でも身だしなみに気を配り、いつ討たれて屍や首だけになっても敵から蔑まれないよう自分の身体や頭髪を手入れしていたから。


戦場で戦う武士というと、外見など構わず、野暮ったくてむさ苦しいイメージがあるけれど、真逆だったのか! 森蘭丸や高坂昌信、直江兼続など衆道で名前を聞く武将たちは、一様に“美しかった”と評価されているけど、生まれつきだけでなく美しくあるための努力をしていたのね。


討たれても美しくとは、独特の美学だと思う。しかし有名な佐賀鍋島藩の『葉隠』では、「最近の若い武士は昔のように身だしなみに注意を払わない」と嘆かれているらしいのが興味深い。衆道が残っていた薩摩や土佐では、このあたり、どんな具合だったんだろう。


男色については、こんな説明がある。


武士の衆道(男色)の契り、なかでも主従間のそれは夫婦の契りよりはるかに深刻で、裏切り行為に対しても残酷な制裁が科された。なぜか。寵愛し、肉の契りを結んだ家臣に対して、主君は自分を最期まで裏切らない特別の忠義を求め、それだけに、他の男とひそかに通じた行為は許しがたかったからであろう。 (P41より ※太字は管理人)


『江戸』には、衆道の裏切りに端を発した事件がたくさん紹介されていたのだけど、その事件を引き起こした当事者の武士たちの恐ろしいまでの“本気”に、読んでいて震えそうになった。


自分を裏切った相手の切腹の介錯の刀は、刃のついていないものを使えと命じたり、鋸や鎌などでなぶり殺したり――確かに残酷。嫉妬や怨恨の炎がメラメラ燃えている感じが想像できて怖い!


ところで男色は、“青年×少年(年上×年下)”という組み合わせがデフォルトだけど、少年ではなく成人男子に恋をする、いわば大人同士の衆道が基になった事件が、元禄時代に起こったという。


これも、領地没収や転封というバッドエンドで終わったのだけど、武士の間で男色が廃れつつあった頃とはいえ、大人同士の衆道が引き起こした事件があったというのが、興味深い。事件として残っていないだけで、実は大人同士の衆道がわりとあった可能性もあるんじゃないかしらん。


それにしても――江戸時代も明治時代も、社会の変化などによって男色が廃れていったのはともかくとして、それに乗りきれない、「オレはやっぱ女より男がいいなぁ」という人もいただろうに……と思う。


明治時代の場合は、その後“同性愛者”というカテゴリーができて、そちらに押しやられていったことは、『男の絆』でよくわかった。でも江戸時代は? 


――今回読んだ中ではよくわからなかった。ただ、江戸時代は風紀の乱れやなどを理由に衆道や陰間茶屋が取り締まりを受けたことはあるものの、倒錯的だとか人倫にもとるとかいった理由で全体的に排除されたことはなさそうだ。


たった150年ほど前のことなのに、なんだか別の国の話みたいだなぁ……。



裏返せば、明治時代になって普及した新しい価値観の影響力が、いかに強力だったかということだと思う。現在なんてさらに、明治以降から第二次世界大戦前までの時代にも、別世界的感覚を覚えるというのに。これも戦後に普及した価値観が、また強い影響力を持っていたということなんだろうな。


時代によってタブーや価値観が変わり、同性愛も排除されたり賛美されたりしたということを、この2冊を読んで強く実感した。同性婚容認の動きが広がり、インターネットでさまざまな情報が手に入るようになった現代だけど、もしかしたら何十年後かには、また価値観が変わって、同性愛に対する考え方も変わっている可能性もあるのかも。


そんなことを想像すると、ちょっとドキドキする。


■おまけ
『江戸のエロスは血の香り』、『男の絆 明治の学生からボーイズ・ラブまで』両方で取り上げられていたのが、男色ロマン小説、『賤のおだまき』。薩摩に伝わる、薩摩が舞台の若武者×美少年の物語で、明治時代の硬派学生たちのバイブルとまで言われていたらしい(つかまた薩摩か! エクストリームな国だな)


そんな『賤のおだまき』について、『男の絆』に書かれていた簡潔な説明、言わば“3行で分かる『賤のおだまき』”に、超ウケた。


・小説の舞台が過去(戦国時代)の薩摩
・小説中に女性が登場しない
・男色関係にある主人公たちは、小説のラストで二人とも若くして死んでしまう



――耽美!! 耽美なBLじゃん、これ!!!


しかもこの小説、作者不明なものの、薩摩出身の女性が書いたという説もあるらしい。ますますBLっぽいじゃありませんか! 


そんなBLくさい小説を、明治時代は硬派な学生がバイブルとして何度も何度も繰り返し読んでいたんですね……胸熱。


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Tags: 氏家幹人 前川直哉 ゲイ 男色 歴史 ヘテロセクシズム 同性愛 腐女子 異性装

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