ファンの献身と忠誠心と。―宝塚歌劇を観てきた[2]

 04,2013 23:19
宝塚歌劇を観てきた[1]」続きです。


“初めての宝塚”に誘ってくださったダイアナさんは、実は一度ヅカヲタを小休止していた出戻り、言わば“リバウンド”真っ最中の人である。贔屓のジェンヌさんのファンクラブに入り、毎日何かしら萌えているらしいことは風の便りに聞いていたのだけど。


観劇の日、舞台は午後からだったので、ランチも兼ねて13時頃に日比谷で待ち合わせをしたのだが、ダイアナさんは、この時間に合わせて待ち合わせ場所に来たわけではなかった。


私、毎日入り待ちと出待ちをしているので、朝8時ぐらいには日比谷に来てるんです」


「え!? じゃあ、出待ちは何時くらいなんですか……?」


「22時半ごろかしら? 私が応援してる生徒さんは、本公演後に新人公演の練習をしているので、どうしてもその時間になっちゃうんですよね。ただその練習期間がいつまでかは分かっているので、それなら毎日通おうかなって」


長いのと、セキララ話なのかもしれないと思ったので、折り畳みます。

わかりやすさを考慮して、ダイアナさんが宝塚歌劇劇団員を指す時は「生徒さん」、それ以外は「ジェンヌさん」にしています。ご了承ください。
――ヒャー!!! 期間が分かっているといっても、入り待ち・出待ちを毎日なんて、すごすぎる!……と思いながら、わたしは恐る恐る聞いてみた。


「あのぅ……入り待ちと出待ちって、ファンクラブの義務なんですか?」


「いえいえ、義務じゃないです。でもね、私が応援してる生徒さんのファンクラブはまだ規模が小さいので、入り待ち・出待ちをするファンって少ないんですよね。生徒さんにとっては、そういうファンがいることがすごく励みになるということなので、少しでも力になりたいなって思って


献身的だなぁ……。


もうこの時点でわたしは圧倒されていた。だって、贔屓の生徒さんのために、仕事をやりくりして毎日朝から晩まで会場近くに駆けつけるんですよ? 並大抵なことじゃできないでしょう。


ダイアナさんはさらに続ける。


「今回lucindaさんを誘ったのはね、ぶっちゃけると、公演チケットを少しでも捌きたいっていうのもあったんです。あさっては●●さんが、来週は▲▲さんが観に来られるんですよ(※伏せ字部分はいずれも共通の仕事仲間)


130902f.jpg
ダイアナさんから受け取ったチケット。実はチケットを入れる封筒のフタをめくると、ダイアナさんが贔屓にしているジェンヌさんからの一言メッセージが入っているのだった


「チケット販売は、ファンクラブの義務なんですか?」


「そんなことはないんですけどね。ただ、ファンクラブを通してチケットを購入すれば、生徒さんに対する貢献となるので、やはり力になりたいなぁって


「あれ、じゃあ、ファンクラブのない生徒さんは大変じゃないですか?」


「うーん、まあ、そういう生徒さんはヅカの方もわかっているでしょうし……(※この辺り、ゴニョゴニョとダイアナさんが濁す)


「そうなんですか……というか、そもそも、ファンクラブのない生徒さんていらっしゃるんですか?」


「いらっしゃいますよ。特に娘役の生徒さんにはファンクラブのない方も珍しくないですね。宝塚はやっぱり男役が華なんです。わたしが応援している生徒さんも男役ですけど、ファンクラブの規模や入り出待ちの人数、お手紙の数なんかも、生徒さんがつける役などに少なからず影響するとなると、がんばって応援しなきゃ、って思うんですよね


――ファンクラブ、超重要な存在じゃん! 


しかし宝塚って五組もあるし、当然ながらステキなジェンヌさんは各組にいらっしゃるはず。例えばダイアナさんが今応援している月組のジェンヌさんと同時に、花組や星組などほかの組の誰かのファンクラブに入るってことは許されるのかしら?


「それはNGって認識ですね。もしかしたら掛け持ちする人もいらっしゃるのかもしれませんけど。あ、同じ組での掛け持ちはNGですよ?」


――なるほどねぇ……。そこは厳正なんだなぁ。BLでいえば一棒一穴主義的というか――あ、下世話な表現ですみません。


観劇した日は、実は組のファンクラブが一堂に会してお芝居を観るという“組総見”の日だったらしく、ファンクラブの方たちは2階席に集まっていた。


ジェンヌさんは、特にレビューの時、その2階席に視線を向けたり、ウィンクしたりとめちゃくちゃアピールしていて、確かにファンとの結び付きを強く感じられた。


――うーむ、せっかくファンクラブに入会しているのに、わたしのガイドのためにダイアナさんは組総見に参加できず、申し訳ないなぁ……。


いえいえ、だからこそ、こんないい席で観られたのかもしれません!


と、ダイアナさんはどこまでも前向きだった。しかも上演中、彼女が応援しているジェンヌさんが視線をくれたり微笑みかけてくれたりしたらしく、大興奮。


「うわー、今、ウィンクをいただいちゃいました……! どうしましょう~! うわ~!」


と、上演中なのを慮りつつ、手で顔を覆いながら密やかに悶えるダイアナさん。仕事では見たことがないような、幸せそうな顔をしていたんだぜ……!


終演してから、「せっかくなのでぜひlucindaさんに見ていただきたいわ」と、誘われて入った、宝塚劇場前のカフェ。


劇場前の通りの両端には、出待ちと思しきファンたちが、3列くらいになって行儀よく整列して立っている。よく見ると、グループごとに共通のアイテムを身に付けているみたい。


130902e3.jpg
ダイアナさんもこんな風に並んでるのね……


「あれは『会服』っていって、応援している生徒さんのファンクラブごとに決まってるんですよ。被っちゃいけないのはもちろん、デザインはトップスターのファンクラブから決まっていくので、下の方は大変で……」


へぇ……とうなずきつつ、お茶をいただきながら外を眺めていると、さっきまで立っていた出待ち列が、いきなりしゃがむ。それは、ジェンヌさんたちが出てくるからなんだとか。


「立ったままお迎えされてもいいんじゃないですか?」


後ろにいる一般の人も見えるように、しゃがむことになってるんです」


「そんな細やかな心遣い……! あ、誰か出てきた! ――ん? 贔屓のジェンヌさんじゃなくても、お疲れ様ですとか、声をかけたりしないんですか?」


「しないですねぇ。そういうことができるのはファンクラブの会員だけ。自分が応援している生徒さん以外は、みんな結構顔を伏せてるでしょう?」


確かに会場から出てきたジェンヌさんが、自分のファンクラブらしき一団のところで立ち止まり、手紙やら何やらを受け取って笑顔で手を振っているのだけど、その両脇の別のファンクラブの人たちは、関係なさそうに顔を伏せ気味にしている。ジェンヌさんも、彼女たちに愛想を振りまいたりしない。


潔癖とさえ思えるほどの忠誠心だなぁ。トップスターの出待ちエリアは大きいけれど、それ以外の、もっといえば駆け出しのジェンヌさんの出待ちエリアは小さく、トップスターの1/10もいないようなところもある。


でも、どんなに小さいエリアでも、ファンもジェンヌさんもきっちり隣りを侵さないように振る舞う。折り目正しいけど、不思議な光景だと思った。


ふと見ると、出てきたジェンヌさん、特に男役のジェンヌさんの傍らに、荷物を持った付き人らしき女性がいる。


あれも、ファンなんですよ。生徒さんのマネージャーや付き人みたいなことを、ファンが担っているんです。もちろん、そこまでできるのは早くから生徒さんを熱心に応援していた方たちなんですけど」


――うーん、もう、何から何まで、ス・ゴ・イ・! 周りにジャニオタはいるけれど、さすがに付き人までは聞いたことがない。それはやはり、宝塚は劇団員とファンが同性同士だからというのも、大いに関係あるんだろうなぁ……。


出待ちのファンたちは、たとえ贔屓のジェンヌさんがすでに帰ってしまった後でも、整然とその場にい続けるのも興味深い。ダイアナさんによると、「一応、ファンじゃなくても全ての生徒さんが出てくるまで待っているんです」ということだった。んもう、キッチリしてると思いきや、そこは大らかなのね!


ところで、ダイアナさんは絶賛リバウンド中なわけだけど、そもそもどうしてヅカヲタを小休止し、復活するに至ったのか?


「20年くらい前にハマってた時は、応援していた生徒さんてすでにスターだったんです。だから、彼女たちが卒業するとともにフェードアウトしたんですよね。けど今年に入って、その応援していた方も出ていた宝塚関連のイベントに行って、やっぱりいいなぁ……って思って。それで、宝塚の専門チャンネルを契約して見ているうちに、今応援している生徒さんに惹きつけられたんです」


――なるほど。それでその生徒さんを見るためにあちこち飛び回ってらっしゃるんですね。


「そうそう。先月なんて、4回も宝塚大劇場に通っちゃいましたからね。


――4回!? 宝塚大劇場!? って、あの、兵庫県の、ですよね……?


「もちろん。パックを利用すると、一泊付きで2万円ちょっとで行けるんですよー!」


――いやいやいや! そこで得意そうに言われても。


そういえば、腐女子において、リバウンドした人はのめり込みっぷりが凄まじいとよく聞くけれど、ダイアナさんもそうなんだろうか?


「ええ、20年前よりものすごくのめり込んでます。以前は私も学生だったので、収入もないし、あんまりやりたいことができなかったんです。あの時にお姉さんたちがやっていたことを、今“お姉さん”になったからこそやるわ! というリベンジ的な気持ちもあるのかもですね


「これのために働いてるんだから! って感じですかね」


「まさにそうですよ! 私ね、改めてヅカにハマる前は男性アイドルにハマってたでしょう? それはそれで楽しかったんだけど、今ヅカにハマっていて思うのは、入り待ち・出待ちをしたり、チケットを捌いたり、お茶会に出たりすることで、応援している生徒さんを支えているという実感が比較にならないほど大きいってことなんです


「ファンクラブの規模やら何やらが、生徒さんの今後に影響するとおっしゃってましたもんね」


「そうなんです。それに20年前と違って、今回は“これから”っていう生徒さんを応援しているでしょう? 生徒さんは、私の子供だといってもいいぐらいの年齢なので、ほんと、“育ててる”感じですよね」


――出た! 伸びしろのありそうなコを見つけて、せっせと応援するおなじみのシステム、というか習わし。宝塚といい、歌舞伎といい、アイドルといい、これって、日本的な光景なのかしら? このあたりの事情を知っている人に確かめてみたいなぁ……。



カフェでの出待ちウォッチング後、「私はこれからファンクラブの方と食事して、出待ちに備えます」というダイアナさんと、交差点で別れた。


しかし、去り際に、


今度ね、九州での公演も控えているので、それにも行く予定なんです。なので1週間ほど九州に行ってきまーす!」


と、めちゃくちゃ朗らかに言い放つダイアナさんなのだった。




「熟な腐女子を探る!(仮)アンケート 第7回『もういいかな…と思ったこと、ある?』」を実施しています。アンケートはこちらからお願いします。31歳以上腐女子の投票数が100になるまで続けます。もちろん、30歳以下腐女子や腐男子の投票も大歓迎! 御用とお急ぎでない方、ご協力をよろしくお願いいたします!

関連記事

Tags: 演劇 タカラヅカ 男役

Comment 2

2013.09.09
Mon
13:39

lucinda #-

URL

拍手コメントRES

コメントありがとうございました! 
お礼が遅くなって本当にごめんなさい。

>09/05 20:48 Fさま
確かに、アレはハマると恐ろしいことになりそうです。でも生で見ると、眼福って感じはしましたよ(笑)

>09/05 23:05 Tさま
おお、ではファンの姿を目にされることは日常的なことだったんですね…! 本当に、ファンに支えられているんだなぁということを、話を聞いていて実感しました。

>09/08 22:00 kさま
あら、リバウンド中なんですね(笑)。なんでしょう、一度外に出て戻ってくると、また違った魅力に気付くところがあるんですかね。ヅカ版銀英伝はチラシを見たことがあるのですが、あのカッコいいポーズにしばらく見惚れちゃいましたw

編集 | 返信 | 
2013.09.12
Thu
13:12

lucinda #-

URL

拍手コメントRES

>09/09 21:25 Nさま
コメントありがとうございました!
Nさまが書かれていることを、まさにダイアナさんも言ってましたね。確かにヅカの場合は、応援したらダイレクトに形になる感じはしますもんね。まあ、独特のシステムだと思います…はい…。

編集 | 返信 | 

Latest Posts