僕のダンナさん (咲乃月音)

 01,2013 21:09
BLは現実のゲイとかけ離れているとか、男同士のあれこれを取り扱っている点でBLが同性愛と無関係とはいえないとか、BLとリアルなゲイの関係性については、今も昔もカンカンガクガク、さまざまな見解がある。


個人的には、BLを安易に“ファンタジー”と決め付けてしまうことに疑問を感じているけれど、じゃあ、BLの何がファンタジックで現実的じゃないのかと考えるに、一番大きいのはもしかしたら


主人公たちをとりまく周囲が、異様にゲイフレンドリー


ということかもしれない、と思うことがある。BLでは、同じ職場や学校などで男同士でひっついちゃった主役カップルを、周りがナニゴトもなくすんなり受け入れるのは珍しくない。あ、あとこれに関連して、同性カップルがあっさりと周りにカミングアウトするのも、BLならではかも。


現実はBLのようにいかないことが多いわけで、だからこそ、周りのキャラクターの反応がウェルカム一辺倒でない作品は、心に残るのかも。


――そんなことを考えさせられたこの作品。非BLで、主人公の家族のすったもんだが、たっぷりと柔らかい大阪弁で語られているのだった。


僕のダンナさん (宝島社文庫 『日本ラブストーリー大賞』シリーズ)僕のダンナさん (宝島社文庫 『日本ラブストーリー大賞』シリーズ)
咲乃 月音

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僕、田丸誠、30歳。工務店を経営する頑固で厳しいオトンと優しいオカン、気の強い妹とひょうひょうとしたおじいちゃんに囲まれて、ごくごく平凡な毎日を過ごしてきた。オトンは「早く結婚して家業を継ぐように」って言うけど、じつは僕には家族の誰にも言っていない秘密があった―。ベストセラー『さくら色 オカンの嫁入り』の著者が描く、温かくて切ない家族の物語。日本ラブストーリー大賞シリーズ。


カバーイラストは、秀良子さんですよ!

ここから折りたたみます。

日本は欧米よりも同性愛について寛容だと言われることがある。でも、自分の家族や身内が同性愛者であることには激しい拒否反応を示すという批判もある。これ、わたしは鋭い指摘だと思っている。


この物語の中で、誠のカミングアウトを激しく拒絶するのは父親だ。「男は強くたくましくなくてはならない」と信じている父親にとって、誠は子どもの頃からおとなしくて内気で優しくて、どこか物足りない。


誠が紹介した恋人の香坂心を、父親は乱暴な言葉で追い返し、誠を殴り、以降、彼は誠と必要最低限しか会話をしなくなってしまう。


そんな父親も、誠の母親との大ゲンカと祖父の急病騒ぎを経てようやく腹を決め、再び心に会うのだが、その時に絞り出すように言ったセリフ


わしはあれから考えた。お前と香坂さんが一緒になるということはどういうことかと。考えて、考えて……ほんでも、どんだけ考えてもわしにはやっぱりわかれへんかった。


が、すごく“リアル”だと思った。同性愛なんて考えたこともない、どっちかといったら「キモチワルイ」「自分には関係ない」とタカを括っていた人の“精一杯”に感じられて。


このシーン、誠が心と一緒にカナダに移住することも打ち明けられるため、父親はもう放心状態。息子がゲイだということも衝撃なのに、男の恋人とカナダに行って家業を捨てるというダブルショックに打ちのめされてしまう。


ここで父親が慰められる物語の展開としては、誠がカナダ移住をとりやめにして、心と一緒に暮らしつつも家業を継ぐ、というパターンもあったとは思う。だけど誠の、


やっぱり自分は自分として生きていきたいってそう思てん。


というセリフから導き出される展開は、誠が妥協や我慢をして家業を継ぐことではないんだよなぁ……と思う。自分がゲイであることをひた隠しにして、周りを気遣ってきた誠の一大決心の重大さを、実感した。


ま、そんなガンコな父親も、やはり大工だった自分の父親(誠の祖父)に幼いころから厳しく育てられ、実は憧れていたピアノも習わせてもらえなかったという過去が明かされているのが、なんだかちょっと因果応報的だ。


家族の拒絶反応といえば、心の母親も相当に取り乱したのだという。また、心の元カレは、心と添い遂げようと考えていたのに結局家族にカミングアウトをする勇気を出せず、心と別れたということが、心の口からサラリと説明されている。カミングアウトはやっぱり簡単にいくわけじゃない。


だがしかし、上に出てきた登場人物以外は、誠の母親も祖父も妹も妹の婚約者も行きつけの料理屋の大将も、最初は驚きこそすれ、誠のカミングアウトを温かく受け入れるのが印象深い。読んでいて、「え、こんなにすんなりわかってくれるものなの!?」と、思わないでもないけれど、カミングアウトに対するそれぞれの気持ちが語られるセリフには、思わずジーンとしてしまう。


そんな中で一番分からないのは、父親のもとで10代から働いている、誠の先輩で兄のような存在・光一だ。


誠がゲイだと知っても、嫌悪感を示すことなくこれまで通りに対応していたくせに、誠を非難し嘲笑する怪文書を田丸家に送り続け、犯人が自分だとバレたら、「誠を追い出して自分が工務店を継ごうと思っていた」とシレッと言って立ち去るのだ。不気味。


実際のところ、光一は誠を気持ち悪く思っていたのか――いやそれよりは、愛情深い家族に囲まれた誠への、嫉妬のようなものに駆り立てられたんじゃないかと思う。現に、誠と心がカナダに発った後、母親からの手紙で、光一が工務店に戻ってきたことがわかる。多分、光一は工務店を盛り立てていくんじゃないかな。


うん、最後の母親からの手紙を読むと、幸福感と切なさの両方がせり上がってきて、ちょっと涙が出そうになるのだ。あんなにいろいろと揉めたけれど、終わり良ければ全て良し。なんとかうまいこと収まって、また新たに踏み出すであろう“家族”の姿に。


この物語は実は、誠と心をめぐる家族のすったもんだ以外は、BLでも見られる設定だと思う。誠と心はどちらもハンサムだし、誠が心に惹かれる葛藤をはじめ、二人が恋に落ちた経緯や仲睦まじげな様子も、ここ数年増えた地味BLではおなじみな感じ。誠と心の濃厚なラブシーンはないけれど、朝チュン的と言えるかもしれないし。<え!?


でも主人公カップルではなく、彼らをとりまく家族にクローズアップされていたことで、BLとはちょっと違う充足感を、読んでいて感じられた。


なにしろBLは、とにかく主人公カップルの顛末を追うのがメインですものね。それがBLの楽しさではあるんだけどね。


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Tags: 咲乃月音 秀良子 ゲイ LGBT

Comment 1

2013.05.03
Fri
16:07

lucinda #-

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拍手コメントRES

>05/02 11:30 Aさま
コメントありがとうございます!
レビュー少な目なブログなんですが、またお時間のある時にでも遊びにいらしてください。

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