お船が見えると
目的地はみなとみらい線「馬車道」駅からほど近く。同行していた大先輩・Aさんの車に便乗させてもらって向かったのだけど、「まだ時間までちょっとあるし、ぐるぐる廻りますか」と、目的地周辺を本当にぐるぐるぐるぐる。
横浜。電車ですぐ行ける場所ではあるけど、仕事以外では行くことがない。なので、あれこれと有名な観光スポットは知っているけど、それがどのあたりにあり、ほかの観光スポットとの距離はどのくらいかなんて、まったくわかっていない。そのため、車窓から見えるものにいちいち大騒ぎ。「あの観覧車をこんなに間近で見たのは初めてですッ!」「これが『クィーンの塔』(横浜税関)なんですね!?」などと言ってはAさんを苦笑させていたのだけども。
――横浜海上防災基地が間近に見えた時ほど興奮したことはなかったね。それこそ、窓を開けかねないほど身を乗り出してしまったのだった。
「ああ、防災基地……」
先輩ズが去年地どりしたところだ…などと思いながら呟いたわたしに、Aさんは「何、なんかあるの?」と聞いてくれる。
「…いや、今わたし、友人(先輩ズ)に教えてもらったマンガが好きで読んでるんですけど、それ、海保を舞台にしたマンガなんですよ。マガジンで連載されている『トッキュー!!』ってマンガなんですけど…」
「へぇ」
「『海猿』って有名になったでしょう? 海保の潜水士を描いたマンガです。トッキューは、潜水士たちの中のエリートじゃないとなれないんですよ!」
「へぇぇ…」
「これがまたマンガが面白くてですね。トッキュー基地って羽田にあるんですけど、空港に行く時、友人(vivian先輩)からモノレールの左側から基地が見えると教えてもらって、思わず窓にはりついたくらい、トッキューに夢中…いや、興味を持ってるんです」
「……へぇぇぇぇ……」
Aさんが相づちを打った直後、後ろの車からクラクションが。慌てて右ハンドルをきったAさんは、苦笑しながら言ったのだった。
「いやぁ、ごめんごめん。ちょっとトッキューを想像してボンヤリしちゃったよ」
――Aさん、脈アリ――いや、違う。というか、何の脈だ。
ともあれ、「マンガ、ぜひ読んでください!」と強力にマンガをオススメしたのは言うまでもない。そんなに好きなら自分が買い揃えておけという感じなのだが、いえ、わたし、これは文庫版で揃えるつもりなのだ。べつに今、文庫版の予定があるわけではないけど、きっと文庫版になるとふんでいるのだ。――ならなかったら――その時は大人買いをしてやるとも。
Aさんがちょっと興味を持ったらしいのをいいことに、「Aさん、もうちょっと防災基地に近づいていただけないでしょうか?」などと厚かましいお願いをするわたし。門の近くまで行って巡視船をたっぷり眺めてきた。あまりに熱心に眺めるわたしに引きつつも、「時間がもっとあれば、海上保安資料館横浜館に行けるけどねぇ」と、慰めるように言ってくださったAさん。我にかえって冷静になると、いたたまれない気持ちでいっぱいです……。
仕事が終わって、またAさんの車に乗る直前、遠くに見えた巡視船を撮ってみた。

うーん…全然、わかんないですね。一応、左から2つ目の木の、すぐ右にある白い四角が巡視船なんですけども……ダメだ……。あんなに門近くまで近づいたのに、興奮して写真を撮ることすら頭に思い浮かばなかった自分が恨めしい……トッキューが好きとかいいながら、「なってない」感じだ。
でも基地周辺は、赤レンガ倉庫があり、芝生が広がって、なんだかとっても気持ちよさそうな場所だった。今度は仕事抜きでゆっくり散策したいわ――。
